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みたもの記録

【舞台】天保十二年のシェイクスピア

2月15日(土)日生劇場

 

これはきっと、噛めば噛むほど味わいが深まる作品なんだろうなと思う。観劇から一週間経ち、細部は忘れてしまってるけど、作品の熱量はしばらく忘れられそうにない。めちゃくちゃ刺激的だった。

 

まず、オープニングから。「もしもシェイクスピアがいなかったら」でいきなり度肝を抜かれた。この皮肉を言えるってすごい、これを観客として聞けるってすごい。タイトルにシェイクスピアと入ってる以外、どんな風に物語が描かれていくのか全く情報を入れていかなかったから、「あぁ、そういうことか!そうくるのか!!!」と、ちょっと興奮した。「飯の種」って言われてますけども。でもほんとそうだもんな、どう考えても、演劇をやるにあたってシェイクスピアは必須科目。避けては通れない。そして役者の多くが憧れて、常にどこかで作品が上演されてる。自分なんか37作品中ほとんど観れていないけど、それでもなんとなく分かるもんな。演劇界におけるシェイクスピア先生の存在の大きさというやつは。

 

長くなったけど、とにかく冒頭からやられてしまった。長丁場の舞台だけど、これはちゃんと食らいついていかねばと思ったし、絶対自分はすきなやつ、と。井上ひさし作品は、昨年のこまつ座「木の上の軍隊」に次いで二度目。小説家であるのと同時にすぐれた劇作家である、ということは、その時詳しく知ることとなった。一つ前の記事のロロ・三浦さんにつづくけど、こちらもまた東北。そして、演出の藤田さんに至っては同郷。やはり自然と惹かれてしまうものなのかもしれない。劇作家・井上ひさし氏のすごさについて木の上の軍隊で少し触れたつもりでいたら、今回はもう思いっきりやられてしまった…という感じ。私は全然知らなかったんだな。今回改めて知れて、観ることができて良かった。テンポの良い台詞回し、ちりばめられたシェイクスピアのエッセンス、エロさグロさの配分、社会への皮肉、抵抗、諦観。とにかく、あまりにもいろんなことが詰まっていて、圧倒されつづけた。ディテールを拾ってゆくには自分の脳みそのキャパが足りない。それくらい、熱量が凄かった。演出・藤田さんのことばにもあったけれど、一見シェイクスピアに見えるものの奥には江戸時代の侠客の世界があり、講談「天保水滸伝」の話かと思いきや再び広がるシェイクスピアの世界。そしてそれは、各キャラクターのホンネとタテマエ、表と裏、そういうのにも全部つながってくる。こんなに緻密で深い物語なのかと驚く。想像以上の世界だった。

 

メディアでもよく取り上げられていたのは久々の舞台という高橋一生。今回はじめて生の芝居を見て、やはりすごい役者なんだなと、つたない表現しかできないけど本当にそう思った。佐渡の三世次。リチャード三世などのいろんな悪役をつめこんだこの役、今振り返ってみても、私はそこまで悪役には思えなかった。彼の意思はあるようでなくて、悪を働いてる意識もそこまでなくて、時流を読むのがあまりにもうまく、達観してるために、最終的には思いがけないところまで辿り着いてしまったという印象。三世次は、どこまでが彼の意思だったのか読めないところが面白い。悪か悪じゃないかのスレスレの感じが、高橋一生の演技の妙だったのかなと。そんなに詳しく語れないけれど、彼の声色や表情って、あまり感情を読み取れない気がしていて。それが今回ほんとうにピタリとハマったのではないかなぁ。悲劇と喜劇、その真ん中で浮遊するような三世次を、私は悪役とは呼べない気がしている。

 

次いで、きじるしの王次。こちらもまた魅力が爆発していましたね……なんだかんだはじめましての浦井さん、登場からあまりにも"主役"で素直に「やられた!!!!」と心の中で叫んでしまった。まず、この王次という役がとても魅力的。三世次につづいて、こちらもまた二面性があるキャラクターで、はつらつとした姿を見せつつも、「問題ソング」の歌詞にあるとおり終始葛藤してる。王次はロミオとハムレットを投影した役だものな。その不安定さが生み出す悲劇は、シェイクスピアの引用と分かっていても暗澹たる気持ちになったし(ここで思い出す「女は弱い、などという誤解」の歌詞)、王次のあっけない最期になんとも言えない脱力感を覚えたりした。

あと浦井さんについて少し。演技してるところをほとんど見たことがなかったから、いつもニコニコホワホワしてる印象だったのだけど(笑)王次のあの振り切り方!格好良さがハンパなかった!若いエネルギーと色気のバランス!かなり心を掴まれてしまったので、王次が途中でいなくなるのが寂しすぎました。

 

そしてなんといっても唯月ふうかちゃん。ヒロイン2役を演じ切っていて本当に素晴らしかった。若手のなかでも、かなり胆力のある役者さんなのではと常々思っているけれど、今回で確信した。前半のおみつの転身具合もしびれたけれど、主張が強くないおさちという役が、実は最後にとんでもなく重要な、三世次と対峙するシーンを担うという。ここすごかった。何ならちょっと息を止めてしまった… 

 

他にもまだまだ、パンフを読み込んで書きたいことはあるけれど、観劇の感想としてはこのへんで。上半期かなり上位に食い込むのではと思ってる。