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みたもの記録

【舞台】弟兄 -ゆうめい

3月14日(土)こまばアゴラ劇場

 

劇団ゆうめいの過去3作品を上演するという企画「ゆうめいの座標軸」のうち、いちばん気になっていた「弟兄(おととい)」。チケットは完売していたけれど、追加公演のおかげで観ることができた。

 

この弟兄は、ゆうめい主宰の池田亮さんご自身が学生時代に受けたいじめをもとに作品化したもの。……という、ここまでの情報しか知らなかったから、ハードでセンシティブな作品かと思いきや、意外にも笑いを織り交ぜていておどろいた。秀逸なコントのような場面が多々あって、何度も笑いが起きていた。もちろん、壮絶な実体験ということもあってキツくてしんどいシーンもあるんだけども、なんというか各シーンのバランスが絶妙で、ただただ「すごいな…よくこういうかたちで芝居にしたな…」という感想をまず抱いた。というのも、開演前の諸注意アナウンスで出てきたひとを完全に池田さんだと思い込み、そのまま彼がスッと作品に入り、時に本人役として、時に回想シーンの進行役として、実にかろやかに劇に出たり入ったりするもんだから、「ご自身で演出して主演(?)もやって、なおかつこのテーマって…どんな達観の仕方なんだ…」と思ったんだよね。そしたらご本人ではなく、中村亮太さんという役者さんでございまして。それに気づいたのは帰宅後でした。なんとも。でもそれくらい引きつけられたということだよなぁと。

 

終始おだやかな調子で、自分の体験を話す池田さん(役の中村さん)。後半、久々に会った当時のいじめ加害者に対して、ものすごい勢いで思いをぶつけるシーンがあるけど、それまでの話の流れでこういう芝居に行き着くとは想像してなかったから、だいぶ衝撃的だった。でもその感情の爆発は何も不自然ではなくて、だからこそくるしくて、やるせなくて。この社会、なんなんだろうな、って無力感すら浮かんでくる。変わらないし、変えられないのか、と。物語の途中からタイトルの「弟兄」の意味に気づくけど、それがまた後半で重要になってきて、被害者と加害者という構図、何が救いに成り得るのか、ということを考えさせられる。彼にとってはなんでもないことでも、 別の彼にとっては「なんでもない」の一言では済ませられないほどの重しになることだってある。

 

一つ思ったのは、演劇というかたちをとることで、自らの思いをぶつけることが出来るのは強いな、ということ。不特定多数の人たちに演劇としてみてもらうことで一気に伝わるし、オープンになる。世に出る。ある意味、多くの人が目撃者となるわけだ。自分の記憶、感覚、体験、そういうものを可視化できる演劇という手段は、それを手にした時点できっと強みだ。うまく言い表せられないけれど、演劇が救いになることも往々にしてあるよな、と。作り手だけではなく、受け手、観客としての自分もまた救われることだってある。今回の弟兄は再々演とのこと。少し時間を置いてまた観れたらなと思う。ゆうめいの別作品も、あとは池田さんが関わる仕事も、できるだけ見逃さないようにしておこう。